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Sleeping on the holiday and sunny day.
ユーレーロミオに恋するジュリエット
(初稿です。いずれ直してなろうに投稿予定)
目次はこちら
第2話です。
↓↓↓
その2:ジュリエットは卒倒する。
「お姉ちゃん!」
息せき切って家に戻ったあたしは、5つ上の姉の部屋のドアを叩き割る勢いで開いた。
「……うるさい」
ベッドに横たわってマンガを読んでいた姉、実弥(みや)は不機嫌丸出しな顔であたしを睨んできた。食べていたポテトチップスをカシリとかんだ瞬間、パラパラと落ちてく食べくずを気にする様子なく身を起こす。
「アネゴ! イケメンを見つけました!」
「まじ!」
「まじっす! 色白美少年です!」
「どこにいたの! あたし、ハントしに行くよ!」
「そこの公園です!」
あたしのテンションにちゃんとついてきてくれる姉に感謝しつつ、あの彼がいた公園の方向を指差した。
その瞬間、お姉ちゃんは顔面真っ青にしてムンクみたいに叫んでた。
「可恵! その公園って殺人事件のあった場所じゃん! 姉ちゃん、ハント無理!」
「びびりだなあ」
「あたしは幽霊とパイナップルと隣の家の達揮(たつき)が死ぬほど嫌いなんだよ。誰か死んだ場所なんて、まじ無理。絶対なんか出るし」
隣の家の達揮はあたしの4つ上で、お姉ちゃんの一つ下。つまり二一歳だ。
身長も高いし、顔は優しげなタレ目でいいやつなのに、姉は毛嫌いしてる。達揮の方はお姉ちゃんにゾッコンラブなのに。
嫌い嫌いも好きのうちってやつだと思うけど。
「で、そのイケメン君は、どういう子だったの?」
びびって見に行けないわりには興味は尽きないようだ。
姉は自他共に認めるイケメンハンター。東にイケメンがいると聞けば会いに行き、西にイケメンがいると聞けば文明の利器を駆使して知り合いになる。
姉のこういう部分を知っていると、自分が男だったらどう考えても恋愛対象にしたくないのだが、姉は男にモテる術を知っている。
色白の肌。桃色の唇。男を見上げる時の潤んだ瞳。ゆわふわに巻いた髪の毛はそれだけで女らしさむんむんだ。
対するあたしは、姉と同じで色白ではあるけど、色気のへったくれも出ないまな板を体の上にどしりとのっけた、少年体型。姉を真似して髪はゆるふわパーマをかけたけど、似合ってないことこの上ない。
一重に間違われることもある奥二重も呪いたいほど嫌いな部分だ。
「可恵、聞いてんの?」
「あ、ごめん。あのね、髪の毛はねふわっとしたかんじのこげ茶色でね、目は涼しげな奥二重。鼻筋はすーと通ってるし、唇なんかはもう食っちゃいたいかんじの程よいぷっくり加減でさ。手足はすらーと長いし。……そういや、半そでだったな」
真冬なのに半そで体操服で登校して来る小学生みたいだな。
もう春先だけど、まだまだ夜は寒いし。
あんなにイケメンなのに、実は変な人?
「名前とか聞いたの?」
「ううん。住所は聞いた」
「なんで住所?」
「ねえ、なんでだろうねえ」
アハハ、と笑ってごまかす。
ねえ、なんで住所をきいたんだろうねえ……。
「どこに住んでるって?」
「わかんないって言ってたよ」
「へえ……ってホームレス高校生かよ」
「ああ、そういえばそうなのかなあ」
姉の顔がものすっごい勢いで崩れた。男の人がみたら絶対ドン引き間違い無しだ。唇がへの字を通り越してフラスコみたいになってる。
……フラスコってどういう形だっけ。
「イケメンでも変人だけは勘弁だわ。達揮の次に勘弁だわ」
手をひらひら振って、姉はまた漫画に視線を戻してしまった。
なにを読んでるんだろう? とのぞいてみてのけぞる。『ゴ○ゴ13』だよ。狙った獲物は逃がさない、あんたとゴ○ゴは似た者同士かもね……。
「あんたも変人とは関わんないようにね。コートの下からモザイク発動とか、そういうことだってありえるんだから」
「はあい」
モザイク発動って、なに?
***
次の日の学校帰りも、あたしは例の公園を通った。彼は昨日と同じく、桜の木を見上げて佇んでいた。
トラックのタイヤくらいのでかいタイヤが半分埋め込まれて、それが5つほど連なっている遊具。そのタイヤに座り、足を八の字に広げて、彼はぼんやりとしていた。
「あ、あのう」
話しかけると、昨日よりもさらに驚いた顔であたしを見つめてくる。すっとした切れ長の目に見つめられるととろけてしまいそうで、あたしの膝はがくがくと震えた。まるで生まれたての子羊だ。
「昨日は、突然すいませんでした」
昨日会った時は、本当に住所だけを聞いてすっ飛んで帰ってしまった。姉はこの人を変人ではないかと言っていたけど、この人から見れば、あたしのほうがよっぽど変人だろう。
「いや……、あ、あのさ」
彼はおそるおそる、挙動不審にあたしに話しかけてくる。
なになに? あたし、どこか変なのかな? まさか社会の窓が全開とか?
チャックをしっかり上げた記憶が無いことに気付いた。スカートだから、チャックを上げ下ろしするなんてスカートを履いた朝だけ。もし全開だったら、今日一日中、桃色パンティーを晒して歩いていたってことだ!
「きゃーーーーーーー!」
奇声を発してしまい、慌てて口を塞ぐ。慌てるな。確認するんだ。
さりげなく腰に手を当てて、人差し指でチャックの位置を確認する。あ、大丈夫だ。ちゃんと上がってる。
「ええと、気付いて、るんだよね?」
珍獣発見! って顔してあたしを見てる彼に、うふっと笑いかけたら、彼の顔が引きつった。姉みたいに可愛く笑えない。
「あの、名前、なんて言うんですか?」
そうだよ。まずはこれを確認しないと。
「その前に、確認しときたいんだけど、気付いてるんでしょ?」
彼が何を言ってるかわからず、首をかしげた。くるんとカールさせた毛先が、腕をくすぐる。
「俺、死んでんだけど」
「神殿?」
「いや、死亡してるの。俺、幽霊なんだよ。気付いて、なかったの?」
……神様仏様。
目の前のイケメンは、わけがわからないことを言っています。
脳内でサイレンがウオンウオンと鳴り響く。
はらはら舞う桜の花びらがぼやけてにじんで、視界が白く染まっていく。
ゴーン、と鐘の音が聞こえた気がした。
‐―‐―
こちらはゆっくり書いてく予定。
ご意見ご感想とかいただけると、なろうに投稿する時に直せるので、なにか一言下さると嬉しいです。