「海の音、君の声」改め「神様がくれた。」第7話書き終わりましたー。
初稿、さわりのみです。
苦手すぎる「起承転結」の「承」部分。むしろまだ「起」?
夜の海は静かだ。花火に興じる若者の声が聞こえてくるけれど、それも波の音に飲まれて、自然の一部のようにゆるやかに空に響く。
ジーがいる場所は浜辺から少し距離があるからよけいに静かで、ジーが好んであの場所にいる理由が実由にもわかる気がする。
月明かりで青白く浮かび上がる海と、白く泡立つ波間。それは世界から隔絶した場所に思えて、すべてから解き放たれた感覚がある。
水族館に向かう途中、太郎を見つけた。
テクテクと小走りで道路を歩いて、実由の存在に気付いたのか、はたと立ち止まる。道路のど真ん中だ。
「危ないなあ……」
車通りはほとんどないけれど、道路のど真ん中にいては危険すぎる。
実由の方を見て嬉しそうにしっぽを振る太郎には、そんな意識なんてあるはずもない。実由は歩調を速めて道路を渡り、太郎にかけよる。
柴犬に似た長い鼻を実由に向け、太郎はぺろりと舌を出した。
「太郎、道路は危ないんだよ。こっちこっち」
動きののろい太郎の首輪をつかもうとして、太郎が首輪をしていないことに気付いた。何にも縛られない一匹狼みたいなジーが、太郎にそういう締め付けるようなものを与えないことに妙に納得しながらも、それは駄目なのでは、と実由は顔をしかめた。
首輪をしていなければ、野良犬に間違われて保健所に連れて行かれてしまうかもしれないし、誰かに拾われてしまうかもしれない。
太郎の名を呼び、道路から駐車場まで連れてくる。安全な場所にたどり着いてほっとすると同時に、ジーに注意しないとな、と拳を握りしめた。
「ジー、いる?」
建物の脇から顔を出して、ジーの存在を確かめる。
ジーはこの前と同じく、海がよく見える芝生の繁った場所を陣取って、煙草をふかしていた。
実由の言葉と共に、ぷかりとドーナッツ型の煙が浮かぶ。
太郎が我先にとジーの隣に走りより、実由も慌てて太郎の隣に座った。
「太郎、首輪してないね」
太郎の首の後ろあたりをなでる。夏毛に生え変わった太郎の毛はごわごわしていてちょっと固い。
「ああ」
「つけないと、駄目だよ」
「なんでだ?」
「野良犬に間違われるよ」
ふっと飛ばした煙草の煙が、月に向かってたなびいていく。届くわけもなく消えていく煙を眺めながら、ジーは少し目を細めた。
「太郎は野良犬だ」
「え?」
「俺が飼ってるわけじゃねえ」
***
この作品においての一番のイケメンはジーです。(断言)